ワークショップ活動

コロナ禍を乗り越えて大阪の都市空間の再編を考える

座長:
阪南大学国際観光学部
教授 松村 嘉久 氏
■主旨

 観光とは究極,人口移動の一種である。ある地域Aから別の地域Xへとある人Yが移動する。地域Aの持つプッシュ要因があって,地域Xのプル要因があって,目的地の地域イメージが多様なメディアによって社会的に構築され,ある人Yのモビリティが高まり,移動しようとする動機が芽生え,何らかの輸送手段を選択して移動する。人口移動のなかで観光を特徴づけるのは,このなかの動機が,余暇,娯楽,冒険や挑戦,未知の探求,異文化交流などと絡むことである。移動動機が純粋にビジネスであっても,仕事が終われば余暇や娯楽は生じるので,観光と全く無関係とは言えない。ただ観光の場合,移動先のX地域においてYが完全なる消費者であることは重要である。
 さて,移動する際は何らかの境界を越えることが多い。その境界には何らかの障壁があって,それを越えるとありとあらゆることが一変する。その境界は多層的で,国際であったり,国内(であったり,地方であったりする。ある地域AでのYは,自らの生活空間で日常を過ごしている。基本となるのは,自宅,近隣,職場の三つで,この三つの場所のなかで日常を過ごす。Yはモビリティの高まりに応じて,この生活空間から抜け出して,境界を越えて別の地域Xへと移動する。モビリティが低ければ,近隣や地方への移動,やや高まれば国内移動,さらに高まれば国際移動となる。つまり,地域Xはモビリティの高低に応じて,低次から高次までの階層性を持ち,高次の階層性を持つ地域Xほど中心性が高く,Yの住む地域Aが分布する範囲は広がる。古典的な都市地理学で学ぶ中心地理論と理屈は全く同じである。
 大都市・大阪は,2015年からのインバウンド時代の到来で,より高次の中心地,国際観光都市へと変貌を遂げつつあった。しかしながら,2020年春からのコロナ禍の影響で,ありとあらゆる次元でモビリティが突然凍り付き,上で述べたような構造が全く機能しなくなった。大阪市の内部でも,生活空間,ローカル中心地,国内中心地,国際中心地,職場の集積する中心業務地区(CBD)と,中心性の階層に応じて,コロナ禍の影響は明らかに異なった。人口移動が消滅した結果,あらゆる空間の中心性が失われ,あらゆる空間が基層となる生活空間へ収斂した。身体性をともなう移動が許容されないコロナ社会で,私たちは緊急避難的に新たな進化を遂げつつあり,そのなかには不可逆的な適応も少なくなく,上述した構造も近い将来,確実に変容するであろう。
 今回のワークショップでは,上述したようなかつての構造をまず踏まえ,それがコロナでどのような影響を受けて,どのように変わりつつあるのか,またどのように変えていけばいいのか議論するなかから,個別のテーマを探りたい。凍り付いたモビリティをどのように回復させるのか,その際,国際観光都市・大阪はコロナ禍で生じた変容や進化をどのように受けとめ,どのような方向へ誘えばいいのか。より具体的には,そうした変容や進化に対応する新しい動きを,現実の大阪の都市空間のなかにどのように落とし込めばいいのかまで踏み込みたい。