今、大阪・関西のあり方が各界で問われている。
経済の側面としては、グローバル化や新興国の台頭による産業空洞化、人口減少・高齢化による活力減退といった日本全体にある程度共通する問題に加えて、企業本社をはじめとした中枢機能の東京流出、地域を代表する開発事業の遅れや不調、ものづくりを担う中小企業の衰退など、大阪・関西に特有の問題も多く見られる状況となっている。
また社会問題も全国的に大きく取り上げられている。とりわけ大阪は、ホームレス数、生活保護率、犯罪発生率など、いくつかの指標で全国各地と比較しても最悪といわれ、大阪という地域ブランドにも少なからぬ影響を与えているように思われる。
こうした状況の中で近年、大阪・関西の進むべき方向について、一部の政治家や有力者から様々な発言がなされている。税制・規制緩和の大阪特区構想、伊丹空港の廃止、空港を結ぶリニア鉄道建設、「関西州」や「大阪都」の創設などである。こうしたそれぞれの提言に対しては、受け取る各人によって賛否両論があると思われるが、そもそもこれらの提案はどのような根拠を基に発せられているのだろうか?。
大阪・関西の経済・社会のあり方、それを支える空港・鉄道や住宅など社会・生活基盤のあり方、そしてそれを担う府県・市町村など地方政治・行政のあり方は、それぞれ同士が密接な関係を持っている。大阪・関西全体にかかわる提言は、政治的な意図や思いつきによるのではなく、将来の全体像=「グランドデザイン」を踏まえて出されるべきである。昨今メディアをにぎわす種々の提案について、政治家や有力者が大阪・関西についてどのような全体像をもって発言しているかについては、ほとんど見えない状況である。
大阪・関西は、長く深い歴史・伝統と多様な産業を持つ都市と地域から成り立っており、地方分権、民間活用、市民参加といった現代の潮流からみても、大きな長所を持っている圏域であるといえる。しかし現在まで、大阪・関西全体での協力関係はうまくいっているとはいえず、むしろ「関西は一つひとつ」などといわれるような対立的な状況も多く見られる。
このWSでは、日本やアジアの中でもとりわけ多様な”持ち味”とレベルの高い個性を持った関西のあり方、そしてその中でもとりわけ中心都市として重要な役割を担う大阪のあり方について多方面から議論する。そして可能であれば、メンバーによる大阪・関西のグランドデザインの具体的な提言を行いたい。
■プロフィール
瀬田史彦(せたふみひこ)
1972年 東京都荒川区生まれ
1995年 東京大学工学部都市工学科都市計画コース卒業
1997年 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程修了
1998年 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程中退
1998年~2005年 東京大学先端科学技術研究センター 助手
1998年~1999年 財団法人日本総合研究所 客員研究員
2000年 タイ・アジア工科大学 人間居住開発学科 客員助手
2000年~2002年 国際協力事業団 タイ都市計画技術向上プロジェクト短期専門家
2002年12月 東京大学 学位取得 (博士(工学))
2003年・2004年 ドイツ・シュトゥットガルト大学 客員研究員
2005年~ 大阪市立大学大学院 創造都市研究科 准教授
専門
都市・地域計画
主な著書
『広域計画と地域の持続可能性<東大まちづくり大学院シリーズ>』学芸出版社、2010年(共著)
『創造の場と都市再生』晃洋書房、2010年(共著)