アメリカの若者のジーンズ姿から、カウンタカルチャーの車として発想された「シャレード」、一人の主婦の「これでどこをデザインしているの!」という苦情から女性のための車として開発された「ミラ・クオーレ」。ダイハツの自動車デザイン創設期からのカーデザイナー・桑畑周右氏が、愛されるスモールカー開発の秘策を熱く語りました。
2月25日(木)の第5回は最終回、アメリカ村の誕生から今日まで、ミナミの街と呼吸をし続けてきたストリート系デザイナー・板倉忠則氏が登場。街を元気にするデザインの在り方を多彩なアプローチから探求します。ご期待ください。
CITÉトークセッション
デザインから大阪を見つめる。
・・・・都市デザインから生活用品まで・・・・
第4回・2010年2月1日(月)
●大阪マインドが生きる車づくり「独自のスモールカーデザインを求めて」
ゲスト:桑畑周右氏(京都精華大学非常勤講師、元ダイハツ工業・カーデザイナー)
コーディネーター:菅谷富夫氏(大阪市立近代美術館建設準備室主任学芸員)
菅谷:この車で初めてデートしたとか、あの車に乗っていたのは子どもが生まれた時だったとか……。車はどこか個人個人の記憶や経験と結び付き、大げさかもしれないけれど人生と重なるところがあります。さらに、車の外観は町の風景を作り、その時代を感じさせるところもある。車は生活を豊かにするための道具だけれど、単なる道具以上のものであることは確かです。それだけに車のデザインが担うものもとても大きいように思いますが、一方で、消費者を飽きさせないよう次々とモデルチェンジして、デザインでアピールするという一面もあります。前回、家電製品は目新しさだけでなく、生活に結び付いた調査やユーザーの要望からデザインが展開していったというお話しを伺いましたが、果たして自動車はどうなのでしょうか。日本の自動車の歴史が実質的に始まったのは戦後。ダイハツ工業で活躍された桑畑さんの経験はまさに日本の自動車産業の展開と重なると思います。そもそも自動車デザインの現場とはどのようなものか、そういったことも含めて伺いたいと思います。
桑畑:1970〜80年代のデザインを見直そうというのが、このトークセッションの趣旨でもありますので、今回は1977(昭和52)年発売のシャレード、80(昭和55)年発売のミラ・クオーレ、2つのモデルに焦点を当ててお話しをしたいと思います。どちらも私がチーフデザイナーを努め、ダイハツとして成功したモデルでもありますが、しかし、ここに至るまでにも泣くに泣けないいろいろなストーリーがありました。入社した61(昭和36)年は高度経済成長の始まり、ミゼット全盛期でしたが、デザイン部門は始動して間もない頃で、ベースはほとんど何もない状態でした。生産ラインに原寸大の線図を渡さなければなりませんでしたが、全長3mのボディを描けるような紙すらありません。ベニヤ板にとがらせた鉛筆で線を描き、修正には消しゴムが利かないのでサンドペーパーで擦る。しなやかな木を細い棒状にして曲線定規を作り、線を描く……、道具から作っていかなければならない試行錯誤の日々でした。その後フィルムに描くようになっても、初期のものは湿気に弱かった。当時はエアコンが入ってなく夏場の製図作業は、重労働でしたね。下着になってはいつくばって図面を描くと、汗が滴り落ち、フィルムが濡れて鉛筆が乗らない。不必要に時間も経費もかかるので、上層部に談判して70年代半ばになんとかエアコン導入にこぎつけましたが……。量産を狙っていながら、開発方法は極めてプリミティブでした。
シャレードも手描き線図の時代ですが、私がデザインの手掛かりにしたのが、1972〜73年アメリカへデザインの勉強に留学中、心をとらえた「ジーンズ」でした。ベトナム戦争真っただ中、若者のほとんどがジーンズを身に付ける姿に、それまでのドレッシーな服に対する強烈なアンチテーゼを感じていました。当時、派手に飾り立てる傾向のあった車へのアンチテーゼとして、視覚に訴える目新しさだけの車ではなく、洗いざらしのジーンズのように長く親しみを持ってもらえる、触覚に語りかけるデザインをめざしました。パッと売れてすぐ売上げの落ちる車が多い中、結果的に、シャレードの売上げのピークは発売の2年目、3年目。それは飽きられることなく評価された証しですから、うれしかったですね。
続く軽自動車のミラの開発の時は、運転免許取得が急速に増えつつあった女性をターゲットにしようと決まりましたが、イメージが定まらず長く悶々としていました。突破口となったのは、ユーザーの調査で訪れた静岡県の掛川市で、偶然出会った女性のひと言です。商店の中に車を入れようと苦労されているところにたまたま居合わせた。意見を伺おうとしたら「車のデザイナーって、これでどこをデザインしているの!」と、ダイハツの車ではありませんでしたが、いきなりこっぴどくしかられました。小柄な女性で斜め後ろが見えにくく、車庫入れがものすごくしづらい。たった一人のひと言ですが、女性のニーズを代弁している気がして、こういう方たちのためにデザインしなくてはと、目が覚める思いでした。発売前には、社内でデザインに関する反発もありましたが一歩も引かず、結果的にミラは年々売上げを伸ばすロングセラーになりました。ユーザーの大半が女性。「主人には乗らせない、私専用の車です」という声が本当に多く、思いが届いたようで感無量でした。
自分の考えは車の形に表現できる、表現してお客さんに伝えることができると信じて私はデザインを続けてきました。私自身、何かしら流行があってもそれには乗るまいとやってきたところは、関西的なあまのじゃく気質かもしれません。おかげで反対を受けることもありましたが、だからこそ他にない、ユーザーに愛着を持ってもらえるものができたのかなとも思いますね。
<第5回(最終回)のごあんない>
CITÉトークセッション
「デザインから大阪を見つめる。…都市デザインから生活用品まで」
・18:30〜20:30(18:00開場)
・トーク会場=i-spot<淀屋橋odona(オドナ)2階>
・ 定員30名(参加費無料、当日先着順により受付します)
第5回(2月25日(木))ゲスト:板倉忠則氏(仮説創造研究所 クリエイティブディレクター)
●ストリート系デザイナーの仕事「街の呼吸を伝える・アメリカ村から大型商業施設まで」
●コーディネーター=菅谷富夫氏(大阪市立近代美術館建設準備室 主任学芸員)
●このトークセッションの内容を冊子にまとめ、3月、「CITE文庫」として発行する予定です。
●アクセス→i-spot(アイ・スポット…大阪市中央区今橋4-1-1淀屋橋odona
2階) TEL:06-4866-6803
大阪市営地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅10番出口直結、京阪本線「淀屋橋」駅3番出口から徒歩1分
http://www.city.osaka.lg.jp/keikakuchosei/page/0000018184.html
●お問い合わせ:CITE(シテ)さろん広報委員会
(財)大阪市都市工学情報センター(担当:北辻・浜田)TEL:06-6949-1910